「公団 金町団地」 建替闘争の記録

1992年(平成4年)から始り、1999年(平成11年)に「協定書」により一応の決着をした「公団 金町団地」(現在:都市整備機構 金町第一団地)の建替闘争の一部を住民の立場からまとめたものです。


「建替と向かい合った日々」

小さな団地の大きな闘い


  金町団地 「建物明け渡し」裁判の記録

  *裁判の詳細はここをクリック*


1.裁判にいたるまで。

 1992年(平成4年)7月の住宅・都市整備公団による「金町団地の建替指定」により、明らかになった「金町団地の建替」は、建替後の家賃がバプルが弾けた後の世間相場から見ても、地域相場からみても余りにも高額で、建替を行うと元の居住者は「住み続けられない」内容でした。

非常識な「居住者の住む権利を奪う建替」を行う公団に対して、金町団地居住者は、団地自治会を中心に「話し合い」による妥協点を見つけようとして、交渉を求めました。

しかし、公団は、建替のパンフレットの「SMILE」では“まごころで話し合いをします”とうたっていながら、実際はまったく居住者の声をきかず、一方的に「協力しろ」と迫り、強引に建替計画を進めていました。

 当時の 公団の建替事業「Smile」人と住まいと環境のために  の見出し
 
「皆さまの深いご理解とご協力が新しい住まいを創造します。」

    まごころで話し合いをします。

    移転住宅の用意から建替後の戻り入居まで。

                            住宅・都市整備公団

そして、今まで家賃を延滞する事なく住んでいた善良な借家人を、とうとう、強制的に追い出す手段として、裁判を取ったのです。

一般的に「裁判」と言う言葉の持つイメージは厳しいものです。

被告になると、悪い事をしてなくても、罪人のような感覚がします。公団はこのイメージを悪用してきたのです。

「話し合いによる妥協点」を求める居住者の行動もむなしく、1995年(平成7年)5月31日、住宅・都市整備公団による「建物明け渡し」の提訴により、裁判になり、私たちは被告席に座る事になりました。

2.裁判での争点。

公団の訴状の概要は以下の通りです。

内容

[借家法] 第1条の2...建物の賃貸人は、自ら使用することを必要とする場合その他正当の事由ある場合に非ざれば賃貸借の更新を拒み又は解約の申入を為すことを得ず。
に基づく、
   −建物明け渡しの請求。
   −不法占拠による賠償金の請求。(家賃+共益費 の1.5倍)

    (注)旧借家法 第1条の2は、現在 [借地借家法] 第28条に改正。

 [借地借家法] 第28条...建物の賃貸人による第26条第1項(建物賃貸借契約の更新拒絶)の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が

   *1 建物の使用を必要とする事情 のほか、
   *2 建物の賃貸借に関する従前の経過、
   *3 建物の利用状況 及び
   *4 建物の現況 並びに
   *5 建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出 を
考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。

       (*注...数字*1 〜 5 は、香川が添付)

  正当事由の根拠
   (一)建て替え事業
     (1)国の施策としての建て替え事業。
     (2)居住水準の向上を図る必要性。
     (3)土地の適正利用の必要性。
     (4)建て替え事業の進行状況。
     (5)居住者の生活に対する配慮。
       (一)事業の遂行方法における配慮。
       (二)賃借人に共通な代替給付。
       (三)賃借人の移転先の希望に応じた代替給付。
       (四)2年間の話し合い期限後の代替給付。
   (二)金町団地の建て替え事業
    (1)内容と必要性。
    (2)居住に対する代替給付。
    (3)実施経過及び被告らの対応。

    これにより、公団の「建替事業」が「借地借家法 第28条」で定める「正当事由」を持っているかどうかが争点になります。

3.弁護団について。              

 1986年から開始された公団の「建替事業」は「住み続けられない高額家賃の設定」により、再入居ができないため、既存住民の定住権を無視し、高齢者を追い出すものとして、協力できない多くの建替対象の団地で訴訟になっていました。

大阪の「都島団地」だけでなく、首都圏でも、東京地裁八王子支部で東村山市の「久米川団地」と保谷市の「東伏見団地」が、千葉地裁松戸支部では柏市の「光ケ丘団地」で既に訴訟が始まっていました。

柏市の「光ケ丘団地」の訴訟で住民側の弁護を引き受けられた“尾崎弁護士”が 訴訟の途中で亡くなられ、後を引き継いだ、“鳥生 忠佑、清水 洋 弁護士”を中心に弁護士が集まり、力の弱い団地居住者の代理人として、不合理な建替を迫る公団に対して法律上の論戦を張り、住民の権利保護を裁判所で訴えていました。

 金町団地でも公団が強権的な態度=裁判 を取ることを想定していましたので、建替対策委員会では、「光ケ丘団地」の弁護団と関係する“田中 隆 弁護士”に依頼し、数回の法律的な勉強会を開いて対応を行っていました。

裁判に対し、弁護団の動きは早く、“田中 隆、坂本 隆浩、金 竜介”の3弁護士が中心となり、19名の弁護団が組織されました。弁護団は、金町団地だけでなく、この後裁判となった足立区の「西新井第1団地」も引き受け、裁判所で公団を窮地に追い込んだだけでなく、「住宅公団の建替見直し運動」の中軸としても活躍されています。

4.裁判と和解の日程。

1995年5月31日付で、公団より提訴がなされ、裁判の開始となりました。

 1995年9月1日に東京地裁で第1回の口頭弁論が開かれました。
 その後2カ月に1回のペースで口頭弁論は開廷され、1999年3月12日の第15回をもって公団が訴訟を取り下げたため、訴訟は終了しました。

  途中、裁判所による和解勧告を受け、和解交渉も5回行われましたが、不調に終わりました。
弁護団の活躍は、金町団地の建替闘争が「協定書」という形で収拾する1999年に入ってからは、特に目覚ましく、他の仕事にかける時間が無くなるほど金町団地に集中しました。
正義と人権擁護のために立ち上がった弁護団の活動の成果として金町団地の建替紛争の収拾があります。

 公団による提訴から、「協定書」による裁判の終りまで、4年近くの歳月が費やされ、延15回にも及ぶ口頭弁論と、途中5回の和解交渉がありました。
この間の金町団地の裁判対象者(15名)の心労は激しいものでしたが、裁判対象者だけでなく、金町地域の住民や、同じ裁判の対象となった他の団地の方たちの「居住者を追い出す建替え」には、断固反対するという強い思いが、この勝利に結びつきました!

 日  付  内  容 
1995年
(平成7年)   
5月31日 公団が、東京地方裁判所に先工区5世帯に対する、「建物明け渡し」の訴えを起こす。

担当、東京地裁10部、裁判長:一宮 となる。
 9月 1日  第1回 口頭弁論開催

傍聴の参加者:102名。閉廷後報告集会の開催(以後も毎回開催する)
 9月28日 公団が、東京地方裁判所に後工区10世帯に対して、「建物明け渡し」の訴えを起こす。
11月10日  第2回 口頭弁論 

ここまでは、先工区の5世帯の口頭弁論。
第3回以降は、先工区の5世帯と後工区の10世帯の提訴と併合となる。
 1996年
(平成8年)
 1月19日 第3回 口頭弁論

 今回より先工区の5世帯と後工区の10世帯、合計15世帯の提訴が併合となる。

テレビ・新聞で「建替問題」取り上げられる。
   3月22日  第4回 口頭弁論

近隣住民も東京都に対し、紛争の斡旋を申し入れる。
   6月  7日  第5回 口頭弁論

マスコミで公団の不透明さが問題になる。
  9月  6日  第6回 口頭弁論

裁判長より和解の勧告があり受ける。
  10月28日 ☆第1回和解交渉

家賃を下げるとの話がでる。

公団本社前で抗議集会を開く。
  11月18日  ☆第2回和解交渉

西新井第1団地並みの家賃に下がる。
  12月13日  第7回口頭弁論

一部建替の提言をする。
  12月20日  ☆第3回和解交渉

特に進展せず。
 1997年
(平成9年)
 1月29日 ☆第4回和解交渉

金町団地としての家賃を検討。

亀井建設大臣より「公団の分譲からの撤退」発言ある。
   3月17日  ☆第5回和解交渉

進展無く和解は不調となる。
   6月  6日  第8回口頭弁論

閣議で「公団の廃止」決まる。
   9月  5日  第9回口頭弁論

廃止となる公団は、建替の根拠を失う。
  11月21日 第10回口頭弁論

建物明け渡しの正当事由の存在が無くなる。
1998年
(平成10年)
 3月13日  第11回口頭弁論

東京都の住宅マスタープランの内容で反論。
   6月  5日 第12回口頭弁論

公団廃止で正当事由なし。
  9月18日  第13回口頭弁論

特に論点なし。

公団が建替団地の家賃を平均20%下げる。
  12月11日  第14回口頭弁論

公団からは元の担当所長の陳述書がでる。

公団が一般住宅の家賃を再値下げ。
 1999年
(平成11年)
3月12日  第15回口頭弁論

「一部建替の協定書」が出来る事になり、今回で最後の口頭弁論になる。
  3月31日  団地住民・裁判対象者と公団との間に「一部建替の協定書」が締結される。

公団は裁判を取り下げる。



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